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高松家庭裁判所 昭和46年(少)644号 決定 1971年8月25日

少年 N・M(昭二七・三・二二生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(虞犯事実)

一  少年は、実父が競輪、競馬にこるなど生活能力乏しく、三歳の頃に実父母別居し、母親に連れられてその実家で生活していたが、母親が、実父と離婚して、昭和三三年頃、少年を実家に預けて継父と再婚したので、母親の実家で、叔父夫婦により養育されるようになり、小学校二年生在学中の頃からは、伯母方に預けられ、昭和四二年三月、中学校を卒業するまで、主にこの伯母に育てられ、その間の一、二年並びに中学卒業後、実母、継父と一緒に生活していたが、継父と折合いが悪く安定することができなかつた。

少年は、この間、放任され、基本的な生活のしつけすら十分身につけず、意志薄弱で、自主性に乏しく被影響的で、軽躁性、自己顕示性がみられ、現実場面に容易に妥協し、安易快楽的放恣な生活をもとめやすく、地道な努力を嫌い華美、享楽的な方向にながれやすいなどの性格、行動傾向を身につけるに至つている。

二  少年は、中学校在学中、学習意欲を欠いて怠学欠席多く、徒遊しがちであり、中学校三年生のとき、女友達と家出して男友達のアパートですごすなどして補導され、昭和四二年二月、審判不開始決定を受けた(同年少第一三五号 ぐ犯保護事件)。中学校卒業後、一時は母親の下で家事手伝いをしていたが、やがて、香川県丸亀市内で喫茶店ウエイトレスとして住込就職し、昭和四三年二月頃、友人を頼つて兵庫県西協市へ行き織布女工となつたが、三ヵ月位で転職して、喫茶店ウエイトレスとなり、三、四か月間で店を変り、さらにバーホステスとなつたが、この間、数か月間、男と同棲生活をしていた。昭和四四年一一月頃、友人を頼つて神戸市に赴き、同市○○区○○通×丁目○際マーケットにおいて、バーホステスとして働いていたが、前借金が返済できなかつたことなどがきつかけとなつて、売春婦に転落し、昭和四五年四月一七日頃より、同マーケット内の売春婦として売春業者のもとで不特定の遊客を相手に売春稼働していたところ、同年五月、補導され、観護措置により少年鑑別所に収容された後、保護観察決定を受けた(同年少第三五六号 ぐ犯保護事件)。

三  その後、少年は、一たんは、実母のもとに帰つたが、同年七月中旬頃、再び、神戸市に赴き、前記補導を受けた当時住んでいた○○区○○○通×丁目○ーアマンションにまいもどり、売春業者のもとで、売春婦として多数の遊客と売春し、従前と全く同様の生活を続け、男と同棲するなど、現在に至るまで不健全で反倫理的な放縦遊惰な生活に終始しているものである。

少年の右行為は、少年法第三条第一項第三号のハ、二の事由に該当し、少年の性格、環境に照らして、将来、罪を犯すおそれがあるものと認められる。

(処遇)

一  前記のように、少年の性格にはかなり問題があり、その行動傾向は不健全且つ不安定であつて、生活態度は悪化の一途をたどつているところであり、また、調査、審判の結果からしても、少年自身の反省と自主的更生意欲は乏しく永続的なものが認められない。

二  少年は保護観察に付された後、早々と神戸にもどつて従前と全く同様の生活を続けながら、月に平均二回位、担当保護司のもとに出頭し、保護司、保護観察官の追及にもかかわらず、実母、継父と一緒に生活して家事手伝いをしているなど虚言を弄していたものであり、また母親も少年と同様、保護司等に一緒に生活をしているなど虚偽の事実を述べていたものである。

三  実母は、これまで述べたところから明らかな如く、少年に対する保護能力に乏しく、ほとんど期待することができず、継父は少年を受け容れる余地がない。また、他に利用しうべき社会資源は見当らない。

四  しかして、その他本件調査、審判にあらわれた諸般の事情を斟酌すると、少年に対しては、健全な倫理観、生活感の体得、堅実な勤労意欲の醸成、正常な性的観念等の涵養のため、長期間の継続的指導を必要とするところ、在宅保護によつては、到底その実効を期し難く、この際少年を施設収容による強度の矯正教育に託す外ないと判断する。

(本件における緊急同行状について)

一  本件における緊急同行状の発布およびその執行について、手続上問題とする余地があると思料するので、この点につき附言しておく。

二  本事件は、神戸家庭裁判所より移送せられたものであるが、記録によると、昭和四六年七月三〇日午前一時二〇分、兵庫県○○警察署警察官から神戸家庭裁判所に対して、電話により緊急同行状の発布の要請があり、同日、神戸家庭裁判所が緊急同行状を発付し、同日午前二時一〇分、同行状の執行がなされ、同日午前一〇時○○分受付の送致書によつて警察官から神戸家庭裁判所に本事件が送致され、一〇時〇一分、同裁判所に少年が同行されたことを認めることができる。

三  右のとおり、本件においては、事件が送致書をもつて家庭裁判所に送致される前に、同行状が発布され、執行されたものであるところ、少年法第一一条、第一二条の規定からして、同行状は家庭裁判所の事件受理前に発布しえないことは明らかである。

四  そこで、本件における前記電話連絡をもつて口頭による通告と認めうるかにつき考察するに、記録によると、電話聴取書に家庭裁判所の受付印が押されてなく、その他受理手続が行なわれた形跡がないし、また、電話連絡を受けたのは裁判所事務官であつて、少年審判規則第九条第二項に規定する調書記載手続はとられていないから、これを電話による口頭通告として肯定するわけにはいかない(電話による口頭通告は、確実性を欠くきらいがあり、その適法性には疑問とする余地があるから、遠隔地間等にあつて、他の方法によることが期待できず、真に緊急やむをえない事情がある場合はともかくとして、一般的にいつて、さしひかえるのを相当とする。本件緊急同行状は、○○警察署において執行されたものであることは記録により認めることができるが、さきに述べた緊急やむをえない事情があつたかについては明らかではない)。

五  また、事件送致の効力が遡るいわれはなく、同行状は少年の身柄を拘束するという人権上強力な効力を有するものであつてその要件については安易に緩和して解することはできないから、後の送致書による送致手続によつて追完されるなどとし、前記電話連絡時に家庭裁判所に事件が通告ないし送致されたとみなして、本件緊急同行状の発布を適法化しようとするようなことは許されるものではないと考える(なお、送致による事件受理の場合、同行状発布手続を行なう際には、送致書が家庭裁判所に受理されていることを要するが、書類、証拠物その他の資料が家庭裁判所に現に送られていることまでは要しないと解する)。

六  したがつて、本件緊急同行状の発布およびその執行は、違法なものであると思料する次第であるが、しかしながら、同行状と観護措置との関係は、逮捕、勾留のように一方を前提的手続とするものではないから、本件緊急同行状における前記違法は、本年七月三〇日、神戸家庭裁判所により適法に行なわれた観護措置決定の効力に何ら影響を与えるものではなく、また本決定をするに妨げとなるところはないと解すべきである。

(結論)

よつて、少年を中等少年院に送致することとし、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 豊田健)

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